久留米市城島町、雄大な筑後川のすぐそばに佇む池亀酒造。創業145年より続くこの酒蔵もまた個性的な日本酒を醸造しています。
池亀酒造を代表するお酒が黒麹をつかった『黒兜(くろかぶと)』まさに、酒蔵のミッションでもある「新鮮な驚きと感動」を与えてくれる日本酒が誕生した物語を代表取締役社長の蒲池 輝行さん(以下:蒲池社長)に尋ねました。
蒲池社長:
「もともとは兄がここを継いでおりましたので、私は外に就職したんです。そこでお酒全般、ワインやウィスキー、リキュールなどにまで携わっていました。18年前に後を継いだ時、今後は他所にないような感動と驚きのお酒を造りたい。また、国内だけではなく世界に市場を広げるための新しい酒造りを考えてきました。」
焼酎に使用される黒麹を使用したのも、蒲池社長の「酸味のあるお酒を造る」という発想から研究開発され実現したそうです。ただ使用すれば誕生したわけではなく、黒麹の発酵の調整が必要でした。
「黒麹を使用して程よい酸味の麹を造ることに苦労しました。外国の方たちにもわかりやすい味を目指して、(黒麹の)クエン酸で爽やかな酸味を感じつつお米の旨味を感じる日本酒に仕上げました。油を使った料理、肉、チーズなどにも合うんです。」
その狙い通り『黒兜』は、フランスで受賞したり、オーストラリアからの販売契約が結ばれるなど世界に飛び立つ日本酒として評価を受けています。
池亀酒造の初代は有馬藩の剣士から明治時代に酒造りを始めました。明治創業した当時、久留米ではあまり良いお酒が造れず、近所の蔵人と共に初代は兵庫の灘まで勉強に行ったそうです。
蒲池社長:
「水が違ったんです。灘ではミネラルの豊富な硬水を使用していました。なので、筑後川の汽水域、海のミネラルが混じるこの辺り(城島)の水を使うようになり、良いお酒が造られるようになったようです。」
「良い酒を、美味しい酒を造りたい」その為に新しい技術を取り入れていく姿勢は、池亀酒造のマインドとして初代より受け継がれて現在に至っていました。
酵母も自家培養にこだわり、池亀酒造の看板を背負う銘柄はこのオリジナル酵母を使用しています。酵母による香りもまた池亀酒造の日本酒の特徴でもあります。
そして、お酒の鮮度へのこだわり。低温での「瓶貯蔵」、「低温タンク貯蔵」などの、日本酒のフルーティな香りや繊細な味わいを可能な限り損なわないような管理は、『美味しい酒』を追求した結果です。
甘口から辛口までいろんなタイプを醸造している池亀酒造。蔵に併設された「かめのこ」では販売だけじゃなく、実際に飲むこともできます。
蒲池社長:「人によって好みが変わりますし、実際に飲んでみて自分に合ったお酒を選んでほしいな、と思いますね。」
「ふわとろ」シリーズは、食感も楽しめる新しい感覚のお酒。こちらも蒲池社長の前職での経験を生かして誕生した。
特に「ゆず」はゼリーの技術を応用し、トロトロとした飲み口なのに、一瞬でふわっと軽く口中に「ゆず」の香りが広がります。のどごしまで驚きの飲みやすいお酒です。
イメージする味のお酒が誕生するまでに重要な役割を果たしているのが『分析室』蒲池社長がこもることも多いそう。
安部営業部長:
「社長は研究肌ですので(笑)」オリジナル酵母を培養したり、新しいお酒の試作もここで行われる。
蒲池社長:「面白いアイデアが浮かぶと、まず造ってみたくはなりますね(笑)」
白ワインのような色艶、フルーティな薫り、柔らかな酸味はありますが、しっかり米の味がする日本酒『黒兜』。和食への相性はもちろん抜群です。
蒲池社長:
「脂ののった焼き魚にもオススメです。酸味で脂を中和して美味しくするためにレモンやカボスを魚に絞って酸味を足しますよね?その役割を担えるお酒です。」
海外を視野にいれた日本酒造りを手がける傍、地元・久留米、福岡への想いも強くあります。
蒲池社長:
「頑なではなく柔軟に時代に対応して積み上げてきたものが『良き伝統』だと思います。
時代とともに作る酒は変わっても、自然と人に対する感謝、酒造りの文化性・精神性を、大事に継承していきたいと思います。」
人や時代が変わっても、蔵人の酒造りに対する思いは変わりません。
「稲作というのは日本の文化だと思います。それを無くしたくない。
福岡の、地元のお米の良さ、お酒の美味しさを世界に発信し認めてもらうことで、この田園風景を次の世代にも残していきたいと考えています。」