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福岡県八女市に300年以上続く蔵元。居酒屋・スナックの数が人口比率になると全国トップクラスの八女では、店先に「繁桝」のロゴをいくつも目にします。
十九代蔵元・代表取締役社長 中川拓也さん(以下、中川社長):
「私たちのお酒は、地元・八女に育てられた味です。八女のお客さまからの声に応えながら、酒づくりを進化させてきた結果、今の繁桝があります。
八女の人たちは、意見をよくくださるんですよね(笑)
造り方などは変えませんが、味はお客さまの意見を聞いて変えます。だから、繁桝は八女のごはんに合うお酒になってます。」
地元・筑後平野のお米と矢部川の伏流水を使い、原料に至るまで地元産へこだわり造られたお酒は、当然、地元の食材に合う味に出来上がります。そこからさらに、地元に愛される味への探求を欠かさないことが、地元で永く愛されている理由です。
また、地元の酒店さんを守るため直販はしないという高橋商店。八女の人で知らない人はいないほど地域に根差す銘柄ながら、全国区では通好みという稀有なお酒です
周りの酒蔵が純米酒や本醸造を多く造る中、吟醸・大吟醸の酒づくりにこだわり、今でも醸造全体の約4割が大吟醸をつくっている高橋商店。
15年ほど前「日本酒と言えば米処の新潟」という印象がまだ強かった時代、JALの国際線機内で取扱われる大吟醸として「箱入り娘」が選ばれました。(当時、日本で2銘柄のみ)
中川社長:
「そこで一気に東京でも名が広まりました」
それを機に東京に販売拠点を移したわけではなく、それから約半世紀経った現在も卸先の90%は九州という、ご当地日本酒の道をまっすぐ歩む高橋商店。
しかし、地元に根付く酒蔵ならではの悩みも。「地元で楽しんでいただくために八女の生活に合わせた価格にしていますが、九州の外に出るとすごくお手頃と言われます。
それだけなら良いのですが、『酒の質も安い』と思われることもあるので、値段=味の良し悪しではない。と知っていただきたいです。」
「酒づくり」というのは、酵母菌という生き物や自然環境を相手にする仕事です。
なので、昔は仕込みがはじまると「泊まりこみ」や朝から夜通し働くことが当たり前とされていました。でも、それでは現代の働き方に合いません。
現代の働きかたに合わせ、もろみの温度管理、こうじ室内での麹の温度管理、日本酒度やアルコール、香りの数値化管理など、科学的分析(数値化)が要る部分や単純作業、衛生配慮が要る部分は機械を導入して、効率化、従業員の負担軽減を実現しています。
一方、職人の技術が『繁桝』の味や品質を守り継ぐ点において必要不可欠でもあります。
「なるべく同じ人員が作業を一貫して行えるように調整し、品質、価値を守っています。職人の力が必要な部分には人手を増やします。効率だけを追ったのでは、繁桝ではなくなるというのもわかりました。」
新築した「麹(こうじ)室」は、全て木製。
「ステンレスの方が手入れは簡単です。でも、木は適度に湿気を吸ってくれるという利点と、手入れをきちんとしないといけない。手入れを怠らないことで、職人としての感性も磨かれていきます。」
技術・文化の継承を大事にするため、職人の育成もしっかりと考えている中川社長。
将来的に「手造り」できる人間がいなくならないよう省かない手間もあるのです。
「長年の感覚でしか生まれない判断力というのはあります。例えばうちでは一斗瓶を手で洗います。匂いがとれるまで何度も洗います。洗えたと思ってもベテランの職人は匂いを感じとります。毎日の繰り返しで鼻が鍛えられ、わずかな匂いの差がわかるようになります。
香りを測る機械は入れてますが、それに最初から頼っていては職人の感覚が養われません。」
「今の『美味しい日本酒』は、いかにフレッシュで、雑味がないかといった狭い幅の判断基準です。ワインのような多様性はあまり認められません。」
季節に合わせたお酒の楽しみ方の変動はありますが、味の判断基準の幅が狭いままでは、日本酒業界が衰退してしまうのでは、と中川社長は危惧しています。
「日本酒にもワインのように『何年モノ』『熟成酒(ビンテージ)』のような概念があれば、もっと年中、またいろんな場面で日本酒が楽しめるようになるはずです。
大吟醸、吟醸、純米酒…と日本酒にも種類はありますが、ワインのように食前から食後まで料理に合わせて日本酒を出すという楽しみ方は、まだそこまでされてないと思います。