延宝元年(1673年)創業。
「玉乃光」は2023年で創業350年を迎えます。和歌山で誕生し、後に水どころ京都伏見に居を移して70余年。目指すのは、いい素材だけを使い、「誠実」な酒を造ること。
長い歴史の中で受け継がれてきた、日本酒本来の姿は「純米酒」です。昭和30年代当時、醸造アルコールや糖類、アミノ酸などを添加した日本酒が主流だった中、玉乃光酒造は昭和39年(1964年)、業界に先駆けて純米酒を“復活”させました。今も変わらず、その信念を貫いています。
使うのは、よい米と水、麹だけ。酒造りもできる限り、昔ながらの手作業にこだわります。理想とするのは、食中酒として楽しめる、料理によりそう飽きのこない味わい。すっと澄んだ清らかな後味こそ、「玉乃光」が守り続ける誠実さの証です。
料理と酒のいい関係。こだわりの「味吟醸」。
二十を超す蔵元が連なる伏見でも珍しい、「純米吟醸蔵」である玉乃光酒造。近年、本来の製造法に立ち返り、醸造アルコールや糖類などを加えずに作る「純米蔵」は増えていますが、吟醸、大吟醸のみを造る「純米吟醸蔵」は全国的に見ても稀少です。純米吟醸は芳醇な香りを愉しむ「香り吟醸」と評されますが、玉乃光がこだわるのは、米の旨味が料理の味を引き立てる「味吟醸」であること。宴の主賓となる華やかさや派手さではなく、表現するのは京都の料理によりそう「食中酒」としての佇まい。それは食事中から飽きることなく食後も飲み続けられ、一人の晩酌も、団らんの場でも分け隔てなく楽しめる普遍的味わいです。
1982年に酒米の原種・雄町を復活させ、2014年からは農薬を使わずに栽培する取り組みも開始。また精米工程も外部に委託せず、自社精米にこだわるなど、こうした原材料への飽くなき探求も「味吟醸」をさらに磨き続けていくため。酒杯に満たされた澄んだ一杯が、いい時間をもたらすように。それが私たちにとっての酒造りの礎(いしずえ)です。
紀州徳川家から免許を賜り、江戸時代から続く伝統と技。
江戸初期、延宝元年(1673年)に創業した玉乃光酒造は、紀州藩二代目藩主・徳川光貞公により酒造免許を賜った御用蔵でした。徳川家が認めた御用蔵はかつて二十ほどあったそうですが、今や現存するのは玉乃光酒造だけ。
最も大切にするのは、江戸時代から受け継がれる「手づくり」の製法です。自動蒸米機など大型機械を導入せず、甑(こしき)と呼ばれる蒸し器を使い、米麹づくりもすべて手作業。2週間ほどかけて醸した酒母に麹、蒸米(むしまい)、水を加え、「添仕込」「仲仕込」「留仕込」という昔ながらの三段仕込みで造ります。米100%の純米酒こそが日本酒本来の姿であり、日本の文化を守ること。伝統的な手法を次世代へと伝えていくことが、玉乃光酒造の信念です。
名水を求めて京都伏見へ。桃山丘陵の恵み、伏し水。
昭和に入り、3000石とも謳われる和歌山県随一の酒蔵に成長していた玉乃光酒造は、1945年、空襲によって全てを失います。十一代当主・宇治田福時が新天地として選んだのが京都の伏見でした。日本名水百選にも選ばれる伏見は、かつて「伏水」と記されたほど良質な水に恵まれた地。「玉乃光」のもろみ仕込みや洗米に使用するのはすべて、桃山丘陵を水源とするこの伏し水。豊臣秀吉が醍醐の茶会の際に汲み上げた御香水(ごこうすい)と同じ水脈である伏流水です。伏見は江戸時代から酒造の町として栄え、明治末期まで酒を積んだ十石舟が宇治川を行き交いました。
この地は明治天皇陵や桓武天皇陵、乃木神社、伏見稲荷、そして豊臣秀吉が築城した伏見桃山城があるため、開発の手が入ることなく、美しい水が保たれてきたのです。伏見酒蔵組合は、京都市行政の協力のもと、地下の土質に鉄分が入らぬよう地下鉄工事を禁じる等、長きに渡り水源を守る努力を続けています。こうして日々豊かに沸き続ける伏し水は、喉越しは絹のように柔らかく、どこまでも清らか。これこそ、宇治田福時が「酒造りに最高の土地」として選んだ理由です。
酒米系譜の祖、「雄町」 の復活。オーガニック酒米の新たな挑戦。
米、水、麹だけで造る玉乃光の酒は、「いい米」を探すことが美味しさの鍵となります。だから米へのこだわりは格別。扱うのは岡山原産の雄町をはじめ、今や酒米の代表格である山田錦、そして京都生まれの酒米・祝(いわい)など、日本各地から選りすぐられた酒造好適米。
中でも特別な思い入れを持つのが、安政6年(1859年)に発見され、最古の酒米品種と言われる備前雄町。山田錦は雄町の孫にあたる品種です。栽培の難しさから一時は生産量が激減し、鏡餅の飾り用としてかろうじて生きながらえていた絶滅寸前の雄町を、栽培してくださる米農家を見つけ出し、1982年に復活させたのです。米だけで造る玉乃光の「無垢な」味わいに、雄町は欠かせません。そして2021年に有機認証を受け、オーガニック日本酒の製造・販売をスタート。岡山の若き作り手が真摯に育てたオーガニックの雄町から、次世代の飲み手に向けた新作が生まれています。